
挑戦することの喜びを、全身で伝えたい。
令和6年(2024年)12月1日号
日本女子フィジーク選手権大会2連覇を果たした、渋谷区スポーツ推進委員連絡協議会の荻島順子さんに競技の魅力、食事やトレーニングへのこだわり、今後の目標などを伺いました。

昭和42(1967)年、千葉県出身。女子フィジーク選手。千駄ヶ谷地区体育会に所属し、渋谷区スポーツ推進委員連絡協議会の委員を務める。令和3(2021)年開催の東京ノービスボディビル選手権大会での優勝を皮切りに、数々の国内大会で優勝し、昨年のIFBB(国際ボディビルダーズ連盟)世界フィットネス選手権大会では初めて世界大会に出場し、3位の成績を収める。今年10月の日本 女子フィジーク選手権大会では2連覇を飾り、現在は12月に東京で行われるIFBB世界フィットネス選手権大会に向けて準備中。
けがを機に競技転向。体が変わる楽しさに目覚めて
自己紹介をお願いします。
荻島:普段はスポーツジムでトレーナーとして勤務する傍ら、東京ボディビル・フィットネス連盟に所属し、女子フィジークという種目で競技活動をしています。また、千駄ヶ谷地区体育会の一員として、渋谷区スポーツ推進委員連絡協議会の委員(注1)(以下、スポーツ推進委員)としても活動しています。
(注1)身近な立場から地域スポーツの推進を図り、区内における多様なスポーツに関するコーディネーターとなることを職務としている。
スポーツ推進委員として活動しようと思ったきっかけを教えてください。
荻島:3人の子どもたちが小学校に通っていた時から、PTAの副会長や水泳指導補助員として学校や地域と関わってきました。もともとスポーツが好きで、学生時代は陸上競技、社会人になってからはトライアスロンに打ち込んでいたこともあり、8年ほど前にスポーツ推進委員へのお声掛けをいただきました。活動を通して新たなスポーツを知ることができたり、年齢の違いや障がいの有無にかかわらず、皆さんがスポーツを楽しむ姿に励まされたりして、やりがいを感じています。
女子フィジークとの出会いについて教えてください。
荻島:子育てが少し落ち着いてきた頃に、趣味としてトライアスロンを再開したのですが、ついやり過ぎてしまい、両膝の半月板を損傷してしまいました。その後、リハビリとしてジムに通い始めた時に、筋肉質な私の体を見たトレーナーから女子フィジークを勧められました。軽い気持ちで始めましたが、最初の年に新人戦で優勝し、日本 女子フィジーク選手権大会(以下、日本選手権)でも8位に入賞できたことで、理想の体をつくりたいと思うようになり、競技に夢中になっていきました。女子フィジークを始めてから筋肉量が増えて疲れにくくなり、食べ物に気を付けるようになって肌もきれいになるなど、どんどん健康になっていくのを実感しています。周りのママ友にも「若返った」と驚かれますね(笑)。
女子フィジークとはどのような競技なのか教えてください。
荻島:全身に筋肉を均等につけて、脂肪を極限まで削ぎ落とし、バランスの取れた美しい体を競う競技です。男子ボディビルに近いのですが、国内には女子ボディビルという種目はなく、女子フィジークが最も筋肉量の多い種目になります。公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟(JBBF)はアンチ・ドーピングを掲げて日本選手権を開催している団体として、公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)にも加盟していて、ナチュラルで美しい筋肉を自分の力でつくり上げることを大切にしています。
週6日のトレーニングに加えて、食事や肌の手入れも徹底
普段はどのような生活をしているのですか?
荻島:朝は5時ごろに起きて家事を済ませ、朝食にプロテインとバナナを食べて、7時にはジムへ行きます。昼食は牛もも肉か鶏胸肉200グラムと野菜、ジャガイモ100グラム〜200グラム、おなかが空いたら間食に鶏胸肉、夕食は鶏胸肉200グラムと野菜を食べます。味付けは基本的に塩だけです。筋肉をつけることはもちろん、筋肉がきれいに見える艶やかでハリのある肌も大会では審査対象となるため、調味料を含めて食べ物にはとても気を使っています。トレーニングは体の各部位を10分割し、毎日ローテーションして鍛えています。仕事がある日もスケジュールを調整し、1日3時間、週6日のトレーニングを欠かしません。ただ、筋肉も休めないと育たないため、週1日は休養日としています。
ストイックな生活ですね!
荻島:トレーニングは苦しいですが、やめたいと思ったことは一度もなく、毎日楽しいです。トレーニング後はとてもおなかが空いているので、塩だけの味付けでも十分おいしいですし、どうしても体が欲していると感じた時には自分で決めたルールの範囲内で好きなだけ食べることにしています。家族には唐揚げやカレーなどを作りますが、私が調味料をほとんど使わないことに慣れてしまっているため、つい味見を忘れてしまう時があります(笑)。
トレーニングや食事以外で気を付けていることはありますか?
荻島:筋肉の疲労を回復させるために質の良い睡眠を取るようにしています。肌の艶を保つため、朝と晩に全身にオイルを塗ることも欠かせません。大会が近づくとタンニングマシン(注2)で日焼けをし、大会当日はタンニングスプレー(注3)を使って筋肉のカット(注4)が最もきれいに見える肌の色に仕上げています。
(注2)肌に光線を照射し、日焼けを促す装置。
(注3)日焼けをしたような色にするために、肌に吹きかけるスプレー。
(注4)筋肉と筋肉の境目がはっきりと見える様子や、筋繊維が浮かび上がる様子のこと。
家族の応援が力に。日々、自分に負けず鍛えたい
女子フィジークの魅力について教えてください。
荻島:一番の魅力は、自分らしさを表現できる競技であることです。私は特定の誰かの体を目指すのではなく、自分にとって理想の体を追求したいと思っています。フィジークの大会の決勝では規定ポーズの審査のほかに、好きな曲に合わせて1分間自由にポージングができる「フリーポーズ」の審査があります。その中で自分の思いや個性を表現できる点が大きな魅力だと感じています。
昨年のIFBB世界フィットネス選手権大会では銅メダル、今年7月の2024 IFBB ASIAN CHAMPIONSHIPS MONGOLIA(アジア選手権)では見事金メダルを獲得されました。おめでとうございます!
荻島:ありがとうございます。外国人の選手は体が大きくて圧倒されましたが、肌の質感や筋肉のキレ(注5)、ポージングなどを総合的に評価していただいたことがとてもうれしかったです。特にポージングは日本人の得意とするところで、見せ方によっては体を大きく、筋肉を美しく表現することができます。研究し始めたら切りがないほど奥深い競技で、まだまだ学ぶことがたくさんあります。
(注5)筋肉のカットが鋭く深く見えることを「キレ」と呼ぶ。大会では「キレている!」という掛け声が飛び交うこともある。
ご家族はどのように応援をしてくれていますか?
荻島:初めての大会は、事前に家族には知らせずに出場し、金メダルを見せながら事後報告しました。その時はあまり理解してもらえませんでしたが、出場した全ての国内大会で優勝した昨年から家族の反応が変わってきましたね。日本選手権では子どもたちが声を出して応援してくれて、決勝で「お母さん!」と叫んでくれたことが心に残っています。「いくつになっても、何かに夢中になって頑張れば、願いはかなう」ということを子どもたちに伝えたいと思って競技を続けてきたので、それが伝わったことがうれしかったです。
今後、挑戦したいことを教えてください。
荻島:10月に行われた日本選手権では連覇を達成することができました。勝ち負けにこだわっているわけでありませんが、チャンピオンだからこそ、説得力を持って伝えられることもあると思っています。来年の日本選手権では3連覇を目指し、自分に負けずに日々体を鍛えていきたいです。また、講習会や大会を通じて競技の普及活動にも力を入れています。ここ数年で国内の競技人口が増えてきているため、今後に期待しています。スポーツ推進委員としては、今年で最後の任期を迎えるので、今まで取り組んできたことを生かして、区民の皆さんにスポーツの楽しさをもっと伝えていきたいです。
これからトレーニングを始めようと思っている人にアドバイスをお願いします。
荻島:最初から苦しいことをする必要はないと思います。筋肉を軽く動かすだけでも、肩こりや階段の上り下りが楽になるなど、体が変わってくるはずです。ジムにあるマシンも説明書通りに動かせば使えますし、分からないことはトレーナーに聞けば快く教えてくれます。トレーニングに限らず、いくつになっても、どんなことでも、自分のやりたいことをできる範囲で挑戦し、コツコツと続けていけば必ず形になると思います。ぜひ、一歩踏み出してみてください。
最後に、区民の皆さんへメッセージをお願いします。
荻島:12月に日本で初開催となるIFBB世界フィットネス選手権大会が、東京で開かれます。私を含め、選手たちは足がつりそうになりながらも必死に笑顔でポージングしていますので、ぜひ、会場で応援していただけるとうれしいです。迫力のあるステージをお見せして皆さんの心を動かし、自分も何かやってみようという気持ちになっていただけるよう、精いっぱい頑張ります!
「渋谷のラジオ」で放送中!
荻島さんへのインタビューは12月3日・10日に「渋谷の星」で放送します。
渋谷のラジオ87.6MHz(外部サイト)



