
自由に体を動かすことで広がる、「心のバリアフリー」。
令和7年(2025年)12月15日号
誰もが運動や活動を楽しめるまちづくりを目指す「インクルーシブ運動場」プロジェクトに携わるお二人に、現在の活動内容や今後の展望などを伺いました。


インクルーシブ運動場

障がいの有無や年齢、性別、特性にかかわらず、誰もが心身共に楽しく運動や活動ができるまちづくりを目指して、笹塚・幡ヶ谷・初台駅周辺(ササハタハツ)エリアを中心に活動するプロジェクトです。
今後の活動について詳しくは、公式ホームページやSNSを確認してください。
インクルーシブ運動場 公式ホームページ(外部サイト)
インクルーシブ運動場Facebook(外部サイト)
インクルーシブ運動場Instagram(外部サイト)
問い合わせ
一般社団法人 Su-Clu-Lab Terrace メール:contact@su-clu-lab.com
まちづくり課まちづくり係 電話:03-3463-2947 FAX:03-5458-4918


楽しく動いて、助け合いながら垣根を越える
自己紹介をお願いします。
積田:インクルーシブ運動場の代表を務める積田綾子です。私は、障がいによって日常の活動や本当にやりたいことが制限されてしまう人たちを支えたいという思いから医師になり、現在は小児科専門医・リハビリ科医として、身体・知的・精神の障がいを持つ人の診療に携わっています。
堀川:インクルーシブ運動場メンバーの堀川徹朗です。私は普段、区の施設の管理業務を行なっています。
「インクルーシブ運動場」を立ち上げたきっかけを教えてください。
積田:医師として活動する中で、投薬やカウンセリングだけでなく、遊びや運動を取り入れた治療方法に可能性を感じるようになり、その考えを深めるためにアメリカの療育施設で研修を受けるなど、活動の幅を広げてきました。こうした医療現場での経験を通じて、「誰もが臆することなく自由に動けるまちをつくりたい」と考えるようになり、「ササハタハツまちづくりフューチャーセッション(以下「フューチャーセッション」)」というワークショップへの参加を経て、令和2(2020)年に「インクルーシブ運動場」を立ち上げました。
堀川:私は以前、知的障がいのある子どもたちのための水泳教室の運営を6年間担当していました。運営に携わる中で、「障がいのある人がさまざまな活動を楽しめる場所をつくりたい」と考えていたところ、「フューチャーセッション」で積田さんと出会い、「インクルーシブ運動場」の立ち上げに携わることとなりました。
積田:「インクルーシブ(注)」と聞くと、「みんな一緒」というイメージを持つ人が多いかもしれませんが、私たちは皆さんそれぞれのペースを大切にしています。年齢や障がいの有無を理由に決めつけず、誰もが気兼ねなく、やりたいことを思い切り楽しめるような場所をつくりたいと思っています。
(注)障がいの有無、性別、国籍、年齢などにかかわらず、全ての人が分け隔てなく受け入れられ、共に尊重し合いながら共生する社会を目指す考え方
「インクルーシブ運動場」では、どのような活動を行なっているのでしょうか?
積田:「インクルーシブ運動場」の活動には、四つの柱があります。一つ目は、車いす体験です。子どもたちに車いすを身近に感じてもらい、未来の渋谷を車いす利用者に優しいまちにすることを目指しています。二つ目は、ポニーライド(乗馬体験)です。公益財団法人ハーモニィセンターの協力の下、障がい者や高齢者など、サポートが必要な人も乗馬や動物との触れ合いを気軽に楽しめる機会を提供しています。三つ目は、プランター活動です。郊外の農園でハーブを栽培し、収穫・加工したものをマルシェなどで販売したり、玉川上水旧水路緑道沿いに車いすでも利用できるプランターを設置したりして、誰でも自由にアクセスできる小さな菜園を造っています。そして四つ目は、「遊びと研究」です。楽しくて思わず体を動かしたくなるような運動になるように、全ての活動に遊びの要素を取り入れています。また、活動の中で心拍数や生体反応の測定などを併せて行うなど、一方的な支援ではなく、医学的な視点も持って活動をしていきたいと考えています。
堀川:活動は月に1回程度で、四つの柱に沿って区内外で多様なイベントを実施しています。理学療法士や作業療法士、特別支援学校教諭、ヨガインストラクターなど、さまざまなジャンルの専門家が活動をサポートしていますので、障がいの有無、性別、国籍、年齢などにかかわらず、誰でも参加することができます。「インクルーシブ運動場」は、同じ空間でいろいろな人が関わって、互いに助け合いながら体を動かし、楽しい時間を共有できる場所です。
遊びや冒険を通じて育つ「心のバリアフリー」
参加者からはどのような反応がありますか?
積田:車いすでの買い物体験など、ゲーム性のある企画は子どもたちにとても人気で、小学校や特別支援学校などから出張授業のご要望をいただく機会も増えています。「車いすに乗ると、小さな段差や隙間も大変なんだ!」「こうしたら、もっと速く動けた!」など、気づきや発見を遊びの中で得る様子を見ると、子どもならではの視点に毎回驚かされます。また、車いすにもスポーツ用や山登り用、立ち乗り用などさまざまなタイプがあり、その性能の違いに興味を持ち、夢中になる子どもも多くいます。バリアフリーというのは、設備や環境を整えるだけではなく、既成概念から自由になること、つまり「心のバリアフリー」が大切だということを、子どもたちから学ばせてもらっています。
堀川:車いすに触れたことをきっかけに、参加した小学生が「今度、まちで車いすに乗っている人が困っていたら、声を掛けようと思います!」と伝えてくれたことが、うれしかったです。友達同士で車いすの操作を教え合ったり、緑道の段差や斜面に苦戦しながらも、意見を出し合って乗り越えたりする姿がとても印象的でした。
積田:乗馬やプランター菜園など、主体的な遊びや運動によって、障がいを持つ人の特性や生活に良い変化が見られるケースも多いです。運動による心拍数の上昇は、体だけでなく脳にも良い影響を与えるといわれていますが、皆さんで一緒に動き、同じ空間を共有するというワクワク感が与える影響も大きいと考えています。
活動の中で印象に残っている出来事はありますか?
積田:「インクルーシブ運動場」と、障がい者生活介護支援施設「Su-Clu-Lab Terrace(サクラボテラス)」、そして公益財団法人ハーモニィセンターの合同プロジェクト「ROAD TO MONGOLIA(ロードトゥモンゴリア)」の中で、馬に乗ってモンゴルの大草原を駆け抜けるという夢を持つ四肢麻痺の女性が、1年以上のトレーニングを重ね、その夢を叶えたことは、私の人生観を大きく変えた出来事でした。彼女の情熱に突き動かされ、たくさんの仲間が集まり、チームとなって支えた経験の中で、「インクルーシブの本質は何か」ということを深く学ばせてもらいました。障がいを乗り越えて夢に挑戦する人を応援することは、私たちの活動における大きな目標の一つになっています。
みんなの目と手と声で、インクルーシブなまちづくりを
今後の展望や目標を教えてください。
堀川:区内のプールを活用したインクルーシブな活動に挑戦したいです。障がいのある人にとって、着替えや入水(にゅうすい)は大きなハードルではありますが、プールならではの浮力を生かした運動を多くの人に楽しんでもらいたいと思っています。
積田:目標は二つあります。一つ目は、今の子どもたちが大人になる20年後の渋谷を、世界一車いすリテラシーの高い街にするための活動を広げることです。最先端の街である渋谷が「車いすで遊びに行っても安心な街」と世界中で評判になったら、とてもかっこいいと思います。二つ目は、令和8(2026)年にポルトガルで行われる、山を登ることができる車いすを使って100マイルを旅するプロジェクト「Accessible Camino Group Trips(アクセシブルカミーノグループトリップス)」へ挑戦することです。「ROAD TO MONGOLIA」を含め、こうした冒険を成功体験として積み重ねることで、ゆくゆくは地域や国を超えて、障がい者の夢や挑戦を応援できる存在になりたいと考えています。
区民の皆さんにメッセージをお願いします。
堀川:インクルーシブについて考えたり、体験したりすることは、これからのまちづくりにとって非常に大切なことだと考えています。私たちのホームページをご覧いただき、活動に参加したいと思った人や学校・企業の皆さまは、公式SNSなどからご連絡ください。イベントごとにボランティアも募集しています。車いす体験についてのお問い合わせも大歓迎ですし、地域のイベントにも呼んでいただけたらうれしいです。
積田:インクルーシブというものは、たくさんの人の手が入り、声が入って、育まれていくものだと思っていますので、区民の皆さんにもインクルーシブ運動場を応援していただければ幸いです。また、障がいがあっても夢に本気で挑戦したいという人が身近にいたらぜひ、ご紹介ください。インクルーシブな渋谷のまちを、みんなで一緒につくっていきましょう!
「渋谷のラジオ」で放送中!
積田さん、堀川さんへのインタビューは12月16日・23日に「渋谷の星」で放送します。
渋谷のラジオ87.6MHz(外部サイト)
問い合わせ
広報コミュニケーション課広報係 電話:03-3463-1287 FAX:03-5458-4920