
当事者同士で分かり合える、多胎家庭のコミュニティー。
令和8年(2026年)4月15日号
多胎児や年子、低出生体重児を育てる家族を支えるコミュニティー「渋谷ファクト」を運営する黒須里恵さんに、活動を始めたきっかけや活動内容などについて伺いました。

多胎育児をサポートする取り組み
多胎とは、双子や三つ子など、一度の妊娠で2人以上の子どもを授かることを指します。日本では、双子の出生は100件の分娩につき約1組(1%)といわれています。また、多胎児の約70% が低出生体重で生まれます。
「渋谷ファクト」は、多胎家庭を支えるコミュニティーとして、令和2(2020)年に設立されました。また、令和3(2021)年には、多胎家族が安心して育児ができる社会の実現を目指して、複数の多胎育児支援サークルの代表者が連携し、「支える・学ぶ・広げる」ための関東1都6県のネットワークとして、「一般社団法人 関東多胎ネット」が設立されました。
多胎児育児環境の地域差をなくすために、交流の場をつくる
自己紹介をお願いします。
黒須:多胎や年子、リトルベビー(低出生体重児)家庭を支えるコミュニティー「渋谷ファクト」の代表を務める、黒須里恵です。私自身も、中学生の長女と、小学生の男女の双子の3人の子どもたちの母として、育児に日々奮闘しています。
多胎家庭の支援活動を始めたきっかけを教えてください。
黒須:双子が1歳3カ月になるまで暮らしていた兵庫県での経験が、大きな原動力となっています。当時住んでいた町では、行政や地域のコミュニティー、大学が密接に連携し、多胎家庭を支える体制が整っていました。妊娠中から必要な情報を得られる仕組みがあるだけでなく、出産時期の近い家族や先輩パパ・ママと自然につながることのできる場がありました。その後、渋谷区に引っ越してきたときに、当時はまだ同じようなコミュニティーが見当たりませんでした。住む場所によって育児環境に大きな差があることに気付き、渋谷区でも多胎育児に不安を感じている家族がつながることのできる場所をつくりたいと考え、令和2(2020)年に「渋谷ファクト」を立ち上げました。また同時期に、関東の多胎サークル代表者の皆さんとの情報交換が始まり、そこでも地域間の支援格差を改めて実感しました。この課題を解決するためには、各地域のコミュニティー同士の連携に加え、行政や医療従事者、研究者、子育て支援団体などが協働して多胎家庭を支えるネットワークが必要だと考え、「一般社団法人 関東多胎ネット」の立ち上げにも参画し、現在は理事として活動しています。
自分たちのための活動から、地域と一緒につくる活動へ
「渋谷ファクト」について教えてください。
黒須:「渋谷ファクト(Fu.c.t)」は、双子の「Fu」、小さめ赤ちゃんの「c」、年子の「t」のそれぞれの頭文字をつなげた団体名になっています。最初は、多胎育児のコミュニティーとして立ち上げたのですが、約半年後に支援対象を年子やリトルベビー家庭へと広げました。拡大の理由は、大きく二つあります。一つは、対象となる三つのグループに多くの共通点があると感じたからです。例えば、年子家庭は多胎家庭と同じように2人乗りベビーカーを使うなど、育児スタイルや負担感が似ています。また、多胎児の多くは低出生体重で生まれるため、リトルベビー家庭と同じ悩みを抱えることも少なくありません。もう一つの理由は、渋谷区の基本構想で掲げられている未来像「ちがいを ちからに 変える街。」に強く共感したからです。三つのグループは境遇こそ異なるものの、共通点をきっかけにお互いを理解し合い、支え合える関係を築くことを目指しています。
具体的にどのような活動をしているのでしょうか?
黒須:活動の中心となっているのは、定例で開催している「渋谷ファクトひろば」です。このイベントは、妊婦さんや子育て中の親子が集まっておしゃべりをしたり、情報交換をしたりするだけでなく、親子で楽しめるワークショップなども企画しています。また、令和6(2024)年からはLINEの公式オープンチャットを導入し、オンライン上でもリアルタイムに交流や情報交換ができる場を設けました。さらに、近隣区の多胎サークルと合同イベントを開催するなど、対面とオンラインの両面からつながりの輪を広げています。
参加されている皆さんの反応はいかがですか?
黒須:参加者の皆さんの反応は、この数年で少しずつ変化してきました。立ち上げ当初は、主催者である私たちが企画内容を考えていましたが、最近では、参加された家族から「次はこんなことをやってみたい」といった提案をいただけるようになったんです。LINEのオープンチャットでも、「このエリアで開催してほしい」といった声が寄せられるようになり、地域ごとのニーズも見えるようになりました。皆さんの声をきっかけに新しい企画が生まれるのは非常にうれしく、「渋谷ファクト」をみんなでつくり上げているという手応えを感じています。
代々木中学校の生徒による「双子育児と移動」をテーマにした探究学習で、共同探究者として協力されたそうですね。
黒須:きっかけは令和2(2020)年、当時中学2年生だったグループが、探究学習の一環で私を訪ねてくれたことでした。双子育児についてインタビューを受けたのですが、多胎家庭を取り巻く現状や制度、さらには社会的な課題にまで踏み込んだ内容で、中学生とは思えないほど本質を突いた質問ばかりだったことに驚かされました。インタビューの後、生徒の皆さんに「双子用のベビーカーを押してみませんか?」と声を掛けると、全員がとても興味を持ってくれて、実際に双子を乗せたベビーカーを押してもらいました。歩道の狭さや段差、道路で人とすれ違う際の難しさなどを一つ一つ確かめながら、真剣に取り組む姿を見て、とてもうれしく感じたことを覚えています。この探究学習の発表の様子は、後日動画で拝見しました。発表は「私たち一人一人の小さな行動が、社会の意識を変えていく」という言葉で締めくくられていて、胸が熱くなりました。
これまでのさまざまな活動を通じて、ご自身にはどのような変化がありましたか?
黒須:一番大きな変化は、「自分たちのための活動」から「地域と一緒につくる活動」へと、視点が広がったことです。区内で行われるトークセッションや渋谷福祉学会でのポスター発表など、地域のさまざまな場に積極的に参加するようになりました。中でも大きな転機となったのは、令和4(2022)年から「渋谷子育てmap(注)」の企画編集部に加わったことです。子育て支援に取り組む人たちとのつながりが一気に広がっただけでなく、「渋谷ファクト」の情報を掲載いただいたことで、多くのご家族に活動を知ってもらえるようになりました。また、次第に他の子育て支援団体との関係も生まれ、家族同士がつながり合ったり、自然と助け合いが広がったりするようになりました。そうした変化を実感する中で、この活動に取り組んできて本当に良かったと感じています。
(注)区内在住の母親と子育て支援団体・施設が協力して作成した、子育て初心者向けの地図型小冊子
お互いを知り、理解し合うことでつながる地域に
「渋谷ファクト」の今後の活動予定について教えてください。
黒須:5月に恵比寿で「渋谷ファクトひろば」を開催予定です。開催日時や会場などについて詳しくは、公式InstagramやLINEのオープンチャットで順次お知らせします。ぜひ、気軽に参加してください。
多胎家庭に限らず、全ての家庭が心地よく子育てできる世の中にするために、重要なことは何だと思いますか?
黒須:活動を通じてさまざまな立場の人とお話しする中で強く感じるのは、立場や状況が異なると、互いの状況を十分に理解できない場合があるということ、そして、私たち「渋谷ファクト」のことも十分に知られていないということです。世の中には、多胎家庭だけでなく、ひとり親家庭や障がいのあるお子さんを育てている家庭、多子世帯など、さまざまな背景を持つ家庭があります。それぞれの状況は異なっていても、周囲の理解不足により傷ついてしまったり、育児の手が足りなかったり、孤立しやすかったりといった課題は共通していると感じています。誰もが安心して子育てができる社会を実現するためには、一つの属性や立場に閉じこもるのではなく、もう少し広い視点でお互いを知り、理解し合うことが重要だと思っています。
区民の皆さんにメッセージをお願いします。
黒須:渋谷区は、本当に地域の絆の強いまちだと感じています。「渋谷ファクト」は、育児に困難を抱えやすい家庭を対象とした小さな子育てグループではありますが、私たちの活動を知っていただくことをきっかけに、身近でそうした家族を見掛けた際には、ほんの少し気に掛けていただけたらありがたいです。また、「渋谷ファクト」では、運営やイベントの手伝いをしてくださるボランティアを募集しています。当事者でなくても参加できますので、興味のある人はぜひ、連絡してください!


「渋谷のラジオ」で放送中!
黒須さんのインタビューは4月21日・28日の「渋谷の星」で放送します。
問い合わせ
広報コミュニケーション課広報プロモーション係 電話:03-3463-1287 FAX:03-5458-4920